PRODUCT STORY
2023.11.06
2023年3月に発売した、世界最薄*1の減量用ポケッタブルスケール「GRAMIL」(グラミル)が2023年度グッドデザイン賞を受賞しました。厚さがわずか8mmのコンパクトサイズ、時間や場所を選ばず、摂取した食事量を手軽に計量できるのが特徴です。 さて、このデザインはどのようにして生み出されたのでしょうか。今回はGRAMILのデザイン担当者にその裏側を聞きました。
株式会社タニタ デザイン部 森田 基美夫
2015年4月に中途で入社。タニタでは主にプロダクトデザインを担当。前職も含めてこれまでに、商業施設や空港のインテリアデザイン、パソコンやスマートフォンなどの電子機器、生活用品やインテリア小物等の贈答品、医療機器、体組成計や歩数計といった計量機器などのデザインを経験している。
森田:
担当をすることになったのは2021年11月でした。今だから笑って話せますが、当初は「2週間でデザインを仕上げてほしい」と依頼されて…。
通常であれば、アイデアスケッチで1カ月、デザイン案を絞り込む工程に1週間、図面制作に1週間、モックアップ(模型)の制作で2週間はかかります。モックアップの制作後は、それを検証し、デザインを仕上げていく工程が必要となるため、短くても2~3ヵ月は欲しいところです。
私自身も中途採用でタニタに入社しているのですが、前職であればもう少し時間に余裕が取れていたため、話を聞いて面くらいました。あまりにも短い納期に最初は驚きましたが、諸々の事情を踏まえるとやらざるを得ない状況でした。
結果的に、この製品に集中して取り組み、なんとかモックアップ制作の準備を2週間で仕上げました。
森田:
時間が短いからといって妥協することはできないので、工程のどこかを削ることはせず、ぎゅっと工程を凝縮しながらすすめました。
まずはデザイン案を30案ほど出し、上司とも相談のうえ3~4案に絞る方法をとることで、モックアップまでの精度を高めておきました。過去さんざん短納期対応をしてきた経験が活きたと思います。
モックアップを作成したあとに仕様そのものが変更になったりと、その後も波乱万丈でした。
森田:
私がデザインするときは、余分な線や要素を減らして、ユーザーに一目で製品の良さが伝わるよう心がけています。また、製品デザインをするときはお客様が一番欲しているものはなにかをデザインに落とし込むようにしています。
今回担当したGRAMILは体重階級制競技のアスリートがメインターゲットです。
限定された層へ向けた製品ということもあり、そのコンセプトに忠実につくっていくことを心がけました。製品そのものはあくまでも目標達成をサポートするための機器ですが、デザインはアスリートが自身の身体を絞って磨き上げていく姿に重なるようにしています。無駄を削ぎ落としたデザインにし、人の手によるヘアライン*2加工をおこなうことで製品の最終的な質感を高めました。
▲工場でヘアライン加工をしている様子
森田:
たとえばタニタの標準的なクッキングスケールの場合、20mm以上あるのである程度の厚みがあるため、持ちやすくなっています。
しかし、GRAMILは世界最薄の8mmという薄型。加えて、減量に励むアスリートが持ち運ぶことを前提にデザインする必要がありました。これらを踏まえたうえで、モノとしてのありかたを考えたところ、使いやすさ、持ちやすさを優先して、デザインを創作していきました。
森田:
はかり本体の側面は持ちやすくなるよう、金属を削りだした“くさび形状”にし、少しくびれているのが特徴です。
また、実際に手に取って見ていただくとわかると思いますが、光の当たる角度によって光沢感が出るよう設計しています。光の反射を計算し、上質さが出るようなデザインに仕上げています。
これまで金属削り出しの製品を手がけたことがなく、私にとっては未知の製造方法だったため、新しいことに挑戦できるワクワク感もありました。
▲減量するアスリートの美しい“くびれ”のような筐体デザイン
森田:
本体だけでなく、パッケージのデザインにも関与しました。
パッケージは紙製の箱にする案もありましたが、ユーザーが本商品を持ち運んで使用することを考慮し、セミハードケースを採用してはどうかと提案し、実現してもらいました。また、ケースを生かしたスリーブ状の梱包を採用して紙製パッケージを削減しています。
セミハードケースに限らず、GRAMILは通常とは異なる要素が多い商品でしたが、開発チームの皆さんの熱意と努力があったからこそ完成した商品だと思います。
▲付属のセミハードケース
森田:
2023年度グッドデザイン賞では、GRAMILの外観が評価されたこと以上に、階級制スポーツに取り組む人をサポートするというコンセプトや専用アプリ、持ち運びやすさなどが総合的に評価されたと思っていて、うれしいです。
今後もデザインを通してユーザーにとってベストな商品を生み出していきたいと思っています。
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